観ない観光【PR記事】

 

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スウェットなんて男も女も同じ素材だろうに、女の子の着ているスウェットの触感ってどうしてあんなに欲情させるんだろうな。

NETFLIXオリジナル映画『バード・ボックス』presents 『観ない観光 目隠しで巡るバスツアー』に参加してきた。
映画『バード・ボックス』の詳しい内容は割愛するが、要は、いろいろあって、目隠しをして冒険する的な話、で、今回はその映画『バード・ボックス』にちなみ、目隠しをして観光するという企画。

深夜、僕が自宅で寝ているとチャイムがなり、玄関を開けると、そこに立っていたのはアルファツイッタラ5歳(嫁公認アカウント)さん。
「パスポートを持って」と言われるままに、アイマスクと大音量のヘッドホンをつけられ、ワゴン車へ、車内は、すでにすし詰め状態……。
ということはなく、自分の足で地下鉄に乗って、某日午後1時に渋谷駅前に集合。

ネットでは交流のあったが、今回初めて会う方々に挨拶をする。
「どうも、猫ですー」と、いつになっても、なんともむず痒い挨拶。思わず猫背になる。インターネットの弊害。

渋谷のスクランブル交差点で目隠し

ガイドさんに連れられ、渋谷駅前のスクランブル交差点を渡り、TSUTAYA前で渡されていたアイマスクを着用する。
電光掲示板から流れる大音量の音楽、街宣車からのスピーチ、車、バイクの音、雑踏、周囲の人々の話し声、その中に紛れた普段人混みの中では気が付かないささやかな風の音。
普段、都会の騒音をどれだけ無意識にシャットアウトしていたのか、実感させられる。
僕はこのときまでは、心に余裕があった。

観ないレストラン

バスで移動しレストランへ着く。
こうばしい香りが漂う薄暗い店内を歩き、席につく。
ここで、アイマスクを着用するよう指示がされる。
シェフから料理の説明がされる。
この時、僕は、宮沢賢治注文の多い料理店』を思い出していた。
前菜は『触覚の野菜スティックとパン』。
アイマスクをしているので、当然、手探りでテーブルの上を確認。
ひんやりとした皿の上に2つのパンがあるのを指先で見つけた。
そのさきに、4つに区切られた皿に盛り付けられた4種類の野菜。が、あるはずなのだが、ない。ないのだ! どこだ。俺の前菜!!
ところが単にまだ配膳されていないだけだった。
実に単純なことであったが、視覚を閉じるということは、こんな単純なことでも混乱を招くのだ。
で、配膳された皿を改めて確認する。
一番右から、ああ、この形は、アレだな。そのとなりは、うんうん、で、そのとなりは、あー、で、一番左が、ん? ない???
え、4つあるうちのおれの前菜、1つ足りなくね? 3つしか皿にのってない。シェフの説明では4つの野菜がのっているはず……、いや、これは、4つといいながら、本当は3つというトリックなのか? でも、参加者は誰もそんなことを言っていない。どうやら、他の参加者はシェフの説明どおり皿に載せられているようだ。いやいや、でも、おれの皿にはどう確かめても3つしかない。え、なにこれ。隣の席では5歳さんが談笑しているのが聞こえる。
(5歳さん、楽しそうに談笑してるけど、実は俺の前菜1つ盗ったな!! ゴサイサン、ワルイヒトネ!!!)
怒りを堪え、それでも前菜の皿の周りを手探りで確認すると、野菜スティックが1本あった。どうやら、何かの拍子で自分で皿から落としていたらしい。
(うわぁ……、5歳さんやスタッフに変なこと言わなくて本当に良かった。こんなに世話になっているのに、なんでこんなことを思ってしまったんだ。俺という人間は……。ママ、ごめんよ……)
いきなり、人を疑ってかかるのはよくない、と自戒した。
しかし、言い訳をさせてもらうなら、視界が遮られることにより疑心暗鬼になってしまったのだ。光がなくなることで醜い心が現れたのだ。
「いや、お前の醜い心、簡単に現れすぎだろ!」
我ながら、そう思う。

”割り勘負け”という言葉がある。
飲み会なんかで、あまり飲まない、食べない人が割り勘で損した感じになることだ。
そういうことでいうと、僕は”割り勘勝ち”する側なのだが、勝てばいいというものでもない。
いい大人になっているにも関わらず、たまにガツガツ飲んで食べて、ということをしてしまう。これは、すごい恥ずかしいことだと思う。
千と千尋の神隠し』だったら、絶対に序盤で豚。
しかし、参加者全員アイマスクをしているので、どんだけがっついてもその様子を見られることがないので、恥ずかしくない。
こんな卑しい心の持ち主は豚にされて当然である。俺のことだけど。
あとあと考えてみれば、スタッフの方々はアイマスクをしていないので、恥ずかしい食べ方をしていたら、恥ずかしい食べ方を見られていたし、参加者がアイマスクをしていることに乗じて、誰かになにかしようものなら、えらいことになっていた(なんてことを考えているんだ、俺は)。

そして、肉が焼け油がはねる音、ガーリックの香り。
メインの神戸牛のサイコロステーキの準備が進められている。
湧き上がる高揚感。
この高揚感はあれに似ている。
そこは薄暗いホテルの一室、念願の彼女が言う。
「先にシャワー浴びてくるね」
静寂が満ちた部屋に溢れるシャワーの音はこれから始まる物語のプレリュード。なんだそれ。とにかく、高揚する。

メインの料理がテーブルに運ばれる。
サイコロステーキを口に入れる。
口に入れた瞬間の違和感。
舌の上で脂が溶け、いわゆる、噛まなくても全然イケる、つう感じだが(まあ、そもそも、普段から早食いであんまり噛まないで「食べ物は全部喉越し」とか言っているので、大抵のものは”噛まなくても全然イケる”のだが。”のだが”ってこともないが)、口に入れた瞬間の違和感を探るため、2つ目のサイコロステーキを口に入れる。
美味しいし、僕でも『高級な肉』ということは分かる。
しかし、視覚を遮り、嗅覚と聴覚に頼って『想像していたステーキ』と『口の中のステーキ』の触覚と味覚が異なり、脳が混乱し、ここでも、(あれ、これって俺だけ?)と心の中で不安になった。何を言っているか分かりにくいと思うが、要は『肉が焼け油がはねる音とガーリックの香り』からは離れたものを口の中で感じた。
念のためにいうが、この”違和感”は美味しさを否定するものではない。

食後には脳内ブレンドするコーヒーが提供された。
まずは、コーヒーを一口飲む。
「普通に美味しい」
そういえば若い時かなり年上の上司に「普通に美味しいです」って言ったら、「普通ってなんだよ!! 美味しいってのは、普通以上だろうが!!」と言われ、カッとなった僕が気がついた時に、握っていたのは血だらけになったハンマー。そして、横たわる上司……、ではなく「一言に美味しいといっても、いろんな美味しさがあるじゃないですか。例えば、奇をてらった美味しさもあれば、高級がゆえの美味しさもある、逆に庶民的、家庭的な美味しさもある。そういう意味では、この場合の『普通に美味しい』は”直球でおいしい”という意味に近いのかもしれないですね」と答えたら、苦虫を噛み潰した顔をしていたのを思い出した。なんで今。

視覚を遮ると、頭の中を普段思い出さないようなことが過る。
そして、次にとある香りを染み込ませたスティック状の厚紙の香りを嗅ぎながらコーヒーを飲む。
うわー。コーヒーの香りが……、あれ、これ、バニラ? キャラメル? チョコレート……ではないよな?? あー、キャラメルマキアート??? いや、なんだろ。正直、香りの変化は分かっても、その”答え”がなんなのか分からなかった……。

観ない散策

最後は、観ない散策。
バスを降り、閑静な住宅街を歩くと、そこに着いた。
アイマスクをするようアナウンスされる。ここからは視覚を塞いだ状態で散策するという。とはいっても、ただ目隠しをして歩く、というものではなく、参加者はスタッフの服の一部を掴み歩く形でアテンドされる。
この時、僕は、たまたま参加者の列の後ろの方にいたのだが、その間、ずっとアイマスクを着用し前の人が進むのを待っていた。列の先のほうが進んでいる気配がする。
どれくらい待っただろうか。もう10分は待った気がするが、もしかするとそれ以上かもしれないし、2〜3分だったのかもしれない。
確かめようがない。
不安になってきた。
周りに他の参加者やスタッフはいるのだろうか?
スタッフが参加者をアテンドしているはずだ。
もしかしたら、なにかの間違いで僕だけここに放置されているなんてことはないだろうか。不安になってきた。
ああ、なんだろう。この不安。
夏休み途中の登校日に、誰にも会わずに通学路を歩いているうちに学校付近まで来てしまい、「え、今日、俺、間違えてる!?」に近い不安。
実は、先程のレストランで「ここが最後のお手洗いのポイント」と伝えられていたが、私は行かなかった。
ここに来てお手洗いに行きたくなってきた。
アイマスクを外して周囲を確認したい。
いや、アイマスクの着用を指示されている。
これを破ることはできない。
ここでアイマスクを外したら企画を台無しにしてしまう。
不安。葛藤。尿意。不安。
「お客様、少し前へ出てください」とスタッフの声がした。
ああ、よかった。
他にもまだ参加者がいて、スタッフもいる。
「お客様、手を出してください」
ようやく、自分の番かと思い手を出すと
「いや、お客様はまだです」
ズコっ。いや、ズコっという表現では少し軽い。
実は正直、若干寂しい気持ちになった。でも大丈夫だ。僕は大人だから。
ああ、それから、どれくらい待っただろうか。
暗闇の中、孤独と尿意への不安が募る。
僕は、暗闇の中でいろんなことを考えた。しかし、どれも意味のないことだったし、誰かに言うべきことでもない。

「どうぞ」
ようやく僕の番が来た。
アテンドしてくれる女性スタッフの声で分かった。このスタッフは有村架純似に違いない。
視覚を塞いだ僕の全神経がそう伝えている。
男も女も着るスウェットは同じはずなのに、女の子の着ているスウェットってどうしてあんなに欲情させるんだろうな。
今、僕の全神経は指先で掴んだ彼女のスエットに集中している。

そこから先は、何も覚えていない。